大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(新れ)386号 決定 1950年3月14日

本籍

広島市段原町九五四番地

住居

同市 松原町六五一番地

入江証券株式会社社長

入江平蔵

明治九年二月九日生

本籍並に住居

同市同町六五一番地

同株式会社社員

入江正夫

大正九年七月八日生

右両名に対する各所得税法違反被告事件について昭和二四年一〇月一四日広島高等裁判所の言渡した判決に対し各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人堀口行松の上告趣意について、

上告の申立は、刑訴四〇五條に定めてある事由があることを理由とするときに限りなすことができるものである。同四一一條は上告申立の理由を定めたものではなく、同四〇五條各号に規定する事由がない場合であつても、上告裁判所が原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めた場合に職権をもつて原判決を破棄し得る事由を定めたものである。

しかるに、所論は、明らかに同四〇五條に定めた事由に該当しないし、また同四二一條を適用すべきものと認められないから、同四一四條、三八六條一項三号により主文のとおり決定する。

この決定は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 穗積重遠)

(弁護人上告趣意書)

昭和二十四年(れ)第三八六号

所得税法違反 被告人 入江平蔵

同 入江正夫

弁護人堀口行松の上告趣意

一、原審判決は、判決に影響を及ぼすべき事実の誤認がある。即ち原判決は本件古物商を入江平蔵が経営して居り、その業務に関して入江正夫が所得税法違反行為を為して居る旨の認定をしているが、一件記録を徴するに被告人平蔵は單に古物商の名義人たるに止まり真実の経営者は被告人正夫である。即ち記録十五丁表以下(第一回公判調書)によれば「古物商を私名義でやつていることは相違ありませんが実際の仕事は五男正夫にやらせています。正夫のやつたことにつきましては私は全然関知しません云々」とあり又被告平蔵が入江証券株式会社社長であることは本件起訴状並に原判決に明示している処であつて、被告人平蔵が古物商を專業としていないのみならず、古物商は單に名義が被告人平蔵であるに止まり、その経営は一切被告人正夫が独断專決していたものであることを伺うに足る。その他被告人平蔵が古物商の実務に関與した様な形跡は本件記録上何処にも見当らない。

叙上の理由から考えて、被告人平蔵と正夫との関係は單に古物商の名義人たるに止まり真実の経営者ではないから所得税法第七十二條に所謂「人の代理人」には該当しない。即ち被告人平蔵と同正夫とは代理関係に立つものではなく、平蔵の名義を以て正夫が経営する業務については原判決摘示の如き事案が発生したのであるから、これに対して前記法條を適用して平蔵に対し刑責を負わせる原判決は事実の誤認に基くものと謂わざるを得ない。

二、被告人正夫は前述の通り自分の経営する古物商の業務に関して本件事案を惹起したものであるに拘らず原判決は被告人平蔵の業務に関して違反行為を為したものであると認定した次第であるから正義に反するものと謂わねばならない。 以上

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